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公開日:2021/07/06
前回「祇」と「祗」(←「氏」の下に下線あり)というそっくりの字が存在し、「祇園」と表記する地域、「祗園」と表記する地域がそれぞれ存在することをご説明しました。では実際にどのように混在しているのでしょうか。
川崎市に「木月祗園町」という地名があります。正確には「神奈川県川崎市中原区木月祗園町」。「氏」の下に下線がある方です。ところがこの「木月祗園町」、実際の使用例は非常に揺れています。「木月祗園町」であれこれ検索していたところ、毎日新聞校閲センターが運営している「毎日ことば」というサイトの「一本取られた『祇園』」というブログ記事を見つけました。ここで川崎では「祗」が正しく「祇」は間違いと書かれていますが、実はそんなに単純ではないのです。
『角川日本地名辞典』(14神奈川県)を紐解きますと、なんと「木月祇園町」とあります。勿論これは辞典の校閲ミスではありません。川崎市が当初「祇」の字で登録していたのに倣ったに過ぎないのです。では、いつから「祗」の字に変わったのか。これはハッキリしています。2004年に住居表示化された際に改めたのです。前回同様、「日本行政区画便覧データファイル」を調べますと、2004年9月に住居表示化と町名変更がなされたと記録されています。そこでそれ以前の版(2004年8月まで)のデータを引っ張り出して確認したところ、住居表示化以前は「祇」の字になっていました。因みに角川地名辞典の刊行は1984年です。
では、なぜ住居表示化の際に川崎市は字を改めたのでしょうか。さらに検索をしてみると、産経新聞の校閲記者が書いた「あやしい『祇園』」という記事を見つけました。この記事の川崎市への取材によると、町名は昭和15年(1940)に設定されたが、「その後、コンピューターなどの影響で『祗』と『祇』が混在するようになった」ということのようです。そして「住居表示を機に、(本来の表記である)『祗』として改めて設定した」とのことで、結論としては「毎日ことば」が「祇」を誤りとしたのは本来の意味では正しいのですが、この祇園シリーズの1回目で書いたように、地名は何が正しいかは一概には言えない側面があるということです。
さて、こうなってくると、現地はさぞかし混乱しているのではないかと想像してしまいます。私も記者の真似ごとのように某月某日に木月祗園町に取材して来まして、これからご紹介したいのですが、例によってウンチクで字数が埋まってしまいましたので、その模様は次回にしたいと思います。(つづく)